もんじゃ

買い物に出かけて出会ったある女性に思わず声をかけた。


僕はもんじゃ焼きが好きだ。かなり好きだ。
東京に住んでいた頃は安くおいしくお酒を飲みたい時は決まってもんじゃ焼きの店に行った。
ふたりで出かけて3つも頼めばお腹も一杯になる。
めんたいこ入りのもんじゃをまず頼む。
コテで焼きながら食べるのも楽しいしビールもうまい。
 だけど、ここ東北の人はもんじゃを食べる、という習慣が無い。
したがって、もんじゃを食べられるお店が無い。
たまにあっても、僕にはもんじゃとはとてもよべないようなものがでてくるので恐い。
キャベツがザク切りで2cm四方の大きさがあったりする。
ご丁寧に「お客さん、焼き方わかりますか?」とか言って、まるで焼そばを焼くように大きなへらで何度も何度も返すという信じられない方法で焼いてくれたりもする。
 そんな中、真っ当なもんじゃを出してくれるお店があった。
しかも、べらぼうに安い。しかも、すごくうまい。
無口なおやじさんと、べらんめえな感じで言葉はぶっきらぼうだけど実はとてもやさしいおかみさんで切り盛りしている店だった。
客人がやってきたり仕事が終わってお金が入ると出かけるのを楽しみにしていたそのお店がある日、突然、何の前ぶれもなく閉店してしまった。
もしかしたら、隣町かどっかに移ったのかと探してみたりもした。
結局、その店は日本そば屋さんになってしまいそれ以来もう僕は5年以上、もんじゃを食べていない。
で、きょう、町で偶然、そのおかみさんを見かけたのだ。
思わず「昔、もんじゃ焼きのお店をやってませんでしたか」とにじりよる僕。
聞けば、おやじさんの突然の大病で店を閉めたのだそうだ。
「今でもやりたいんだけどね」と言っておかみさんは去って行った。
なんで、こんな話をながながと書いたかと言うと、いくらそれだけ思い入れがあったとはいえ僕はそーゆー状況で声をかけたりする人間ではないのだ。
声をかけながら僕は自分のしていることにかなり驚いていた。
あと一歩出せばいいのに、というところであと一歩がなかなか出せないというのが僕のキャラクターだと自分では思っていたのに、「あ、何やってんだ俺」という感じだった。
年を重ねて恥ずかしい、という感覚が減ってきているのか、それともずうずうしいおやじになったのかな、俺。