ハーブ&ドロシー

 アートの森の小さな巨人「ハーブ&ドロシー」を観た。
※公式サイトに行けばほとんど載っていることばかりだけど一部ネタバレになる要素があるかもしれません。見ようと思って検索してこのページにたどり着いた人は以下は見ない方がいいかも。別にたいしたことは書いてませんが
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 ニューヨークで暮らしている公務員の夫婦のドキュメンタリー。絵を描いていたふたりはいつしか現代美術の作品を買うようになる。壁に掛けた自分たちの作品がそれらに取って代わり、いつしか全てが若い作家の作品で埋め尽くされることになる。ただしただの金持ちが金にものを言わせて買い集めた訳ではなく、妻の給料でアパートに猫と質素に暮らし夫の給料で作品を買っていく。ルールはシンプル。(お金のためではなく)自分たちの好きな作品を買う。1DKのアパートに収まるサイズのもので自分たちに買えるもの。
 ふたりには作家の全ての作品を見たがり考えを知りたがり一緒に作品を作る気持ちになるくらいの過剰さがあった。そしていつしかそれらのコレクションはアメリカの現代美術の歴史を網羅するほどのものとなるが、アパートに足の踏み場もないほどに収蔵され積み上げられ作品がいつ火事で全焼しないか亀や金魚の水槽が倒れて水浸しになって台無しにならないか心配した学芸員の提案に乗りついには国立美術館に作品を寄贈することになる。。。
 編集の手際がいいので話がテンポ良くポンポン進んで気持ちがいいし買われる側の作家の話が面白い。特にクリストとジャンヌ=クロード。最初クリスト名義で作品を発表していたけど後に全てふたりの名義に変えたふたりの関係がふたり一緒のインタビューから少しうかがえた。仲良さそう。それに作家はみんないい顔して笑うなあ。そして、ニューヨークで17週のロングランヒットになったこの作品の監督は日本の女性、佐々木芽生。ハーブとドロシーのアパートでの日常にも密着して撮影しているけれどカメラがあることを感じさせないリラックスしたふたりの振る舞いから監督と彼らの関係もまた垣間見える。作家とそれを支える人とお金、の関係を元気になる形で見せてくれた。
 この話には後日談があって作品の数が膨大すぎて国立美術館だけではひきとりきれずアメリカ50州の美術館にも50点ずつ(2500点の!)作品が寄贈されたのだという。そしてそのドキュメンタリーも別の監督によって制作中。(佐々木芽生は製作)
 無償で作品を寄贈された美術館側は誠意としてふたりの老後や健康に何かあった時のためにいくらかのお金を渡したのだそうだ。だけどそのお金はゆったりとしたソファを買うこともなく結局全て!現代美術を買うことに使われたそうだ。まさにコレクター。
 もちろんこれは宝くじを買ったら数億円が当たった、という話ではありません。もともと審美眼を持っていたことに加えて、働き始めた後でも大学で美術を習い絵を描き仕事以外の時間の殆どをギャラリー回りや作家と話すことに費やす中でひとつひとつ選んで買っていったものが、今となっては莫大な価値を持つものになった、という話。
 ドロシーは映画の最後の方で言う。「楽しかったわ。楽しくなくなったらやめるわ」。。。楽しくなくなりそうな気配はもちろんない。
 最後にノートPCを買いに行くドロシーがエンドロールと共に流れる。一緒に行ったハーブはすぐに退屈してベンチに座っている。ドロシーが必要な機能をリストアップしてきたといって読みあげるその内容がかわいい。ワープロは必要、インターネットは有線じゃなくて無線がいい etc 。。。。。大丈夫。MacBookAirには全ての条件がもうそれこそ充分にそろってますよ・笑