青い布

120322
 棚を整理していたらこんな「青い布」が出てきた。
さて、問題です。
これは過去に行なわれたあるアート・プロジェクトで使用されたものです。そのアート・プロジェクトは何でしょう?
ヒント1:日本で開催されました。
ヒント2:アメリカでも開催されました。
ヒント3:日本は茨城県が舞台でした。
ヒント4:アメリカはカリフォルニアが舞台でした。
ヒント5:壮大なプロジェクトにかかる巨額の費用は、企業などから一切の援助を受けることなく、全て私財でまかなわれている。
ヒント6:「包む」事で有名な作家。
ヒント7:今から21年前、1991年に開催されました。
ヒント8:二人のうちのひとりはブルガリア出身。
ヒント9:二人のうちのひとりはモロッコ出身。
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答えは▼

 

 

 

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クリストの「アンブレラ・プロジェクト」でした。
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 大好きだったクリストの「期間限定」、それをのがしたら記録の写真や動画でしか体験できない「作品」が日本で見られる幸せに狂喜し、見に、体験しに行った。結婚したばかりのカミさんと友だちと義弟と彼女と。
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 あいにくの雨で傘を閉じる係の人との追っかけっこになった。これらの写真はその頃、流行っていたフィルムが充填されていて撮ったらすぐ現像に出すインスタントカメラ(写るんです)のパノラマカメラ版。気に入ってこの頃たくさんパノラマ写真を撮った、エッフェル塔を縦にパノラマで撮ったり。
以下の画像は“Christo and Jeanne-Claude”公式サイトからの転載です。
当初、クリスト名で作品を発表していたけど、ある時、過去にさかのぼって夫婦の連名にしたことがすごく印象的だった。夫婦とか芸術とかを考える時にいつも思い出す。「ハーブ&ドロシー」という映画で夫婦でインタビューに答えている映像も仲良さそうで素敵だった。プロジェクトの巨額の費用を一切の援助を断りプロジェクトのためのドローイング等の販売でまかなっていた”真摯”な態度をそこにも感じた。この二人は芸術と夫婦を両立していたんだろう。

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[The Umbrellas:Japan-USA, 1984-91]

 クリスト(Christo and Jeanne-Claude以下略)の作品はコンセプチュアルなところもあるけど実際に出来上がったものが、当初の計画をはるかに超えて「美しい」事が一番好きだ。世界的に人気があるのも体験して見たら一目瞭然、だからだろう。このアンブレラプロジェクトのデッサン自体もすごく美しいけど実際の傘が並ぶ景色はきれいだったなぁ。
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[Valley Curtain:Rifle, Colorado, 1970-72]

 谷をカーテンで覆うなんて、考えた人は今までにも、いたかもしれないけど実行に移すまでの「思い」を想像すると気が遠くなる。日本では美術をやっている人はどこか破天荒な人で人格や性格が破綻しているところもあるけれど作品が素晴らしければ後はOK的なイメージを強要される感じがあった。まあ、本当に時代を超えるだけの作品を生む人には人としての期待されることなんて超えることがあるのかもしれないのだけど。
 ビデオと写真でしかこの作品を「体験」していないんだけど本当に好きな作品。作品を生む力は結局「思い」だ。
 振り返ると自分はいろんな事があって注意力散漫、思いが足りない。反省。
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[Surrounded Islands:Biscayne Bay, Greater Miami, Florida, 1980-83]

 クリストはひとつのプロジェクトを実現するまでの長い期間を地道な努力で乗り切っている。真っ当な「社会人」として。芸術家だからなんてはったりは一切なしで。格好良いなぁ。この”Surrounded Islands”プロジェクトの時は付近に生息するマナティが呼吸しようとして水面に上がってきた時にピンクの布のせいで呼吸できず死んでしまうのではないか?というようなアメリカ政府の疑問にもひとつひとつ答えて実現したものだ。余談だけれど、それが大丈夫ということを立証するには実際にやってみるしか無いわけで、ある水族館の水槽を実際に使うピンクの布で覆って実験までしている。結果、マナティはその下で泳ぎまわり、ピンクの布を下から押し上げて空気を吸った。それだけではなく水槽の半分だけがピンクの布で覆われるようにしてどちらにいるのを好むのかを見てみた結果、マナティはピンクの布の下にいることをより好むことが分かり、さらにそのピンクの布の下では、交尾が促されることもわかりました。とまで報告している。(興味の有る方はこちらの”pdfファイル”も)
 クリスト展でドローイングや写真を見ただけで本物は見ていないけど大好きな作品だ。
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[Wrapped Reichstag:Berlin, 1971-95]

 いい作品さえ作っていれば破天荒な方が芸術家らしいという(くだらない)固定観念を払拭してくれて、常識のある人間として常識を超える作品を作れと教えてくれた作家の記念として今でも大切にもっている青い布の話でした。
 異常な人間が普通の作品を作るより、普通の人間が異常な作品を作ることに意味がある、と言っていたのは大江健三郎だったか。