ナンシー関 顔面遊園地

渋谷パルコ Parco Museum で「顔面遊園地」〜ナンシー関 消しゴムの鬼〜を見る。

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天才がこの世に残した消しゴムを見たかった。消しゴム版画だけじゃなくてナンシー関の文章を読む時に感じたカタルシスは、他ではなかなか代替が利かないものだ。その眼力が見抜いて、作品として定着させた消しゴム版画と文章は、時代を経てみて改めてその鋭さを思い知らされる。今では当たり前に見えても、その当時はまだ誰も気づかなかった事をいくつも幾つも、数年前にすでに見抜いて提示している。

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入場料を払うと入場券代わりにこんな紙を渡される。(これが後で役に立つ)

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おみくじを引くような箱のなかに手を突っ込んで「ひとつだけお取りください」と言われる。何だ?と思ったらこんなおまけが。僕は「ふかづめ注意」の消しゴムはんこの栞だった。これだけで、もう嬉しくなってしまう展覧会は、びっくりするくらい多くの人が集まって満員電車の様。入り口から先になかなか進めないほどだった。みんなも本当に好きだったんだなぁ。39歳で死んでしまうなんて。

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展示された生ハンコは800点!棟方志功記念館のそばに生まれた関直美が上京して入学した大学でヒマでヒマで消しゴム版画を彫り始め、ナンシー関になるきっかけになった「丁稚」シリーズ10点もじっくりと見ることができた。

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ビートたけしのオールナイトニッポンを録音したカセットテープも展示されていた。毎週1時になるとラジカセの録音ボタンを押して、録音しながら聞き、次の放送までの1周間に7〜8回は聞き直していたという。ナンシー関は言っている。

わたしのなにかが、ビートたけしのオールナイトニッポンで作られたことは否めない。否むことはないが。

ビートたけしが北野武として今出しているような書籍とは違う(ちょっとくだらない)初めてのタレント本を買い、初めてのコンサートに行き、もちろんオールナイトニッポンを聞いていた僕はもちろん同じ思い。

消しゴム版画に添えられた一言、そしてコラム。ナンシー関の文章にも共感、同感することばかりだった。たけしのお笑いウルトラクイズという番組でモーターボートの舳先にダチョウ倶楽部の上島竜兵がくくりつけられて暴走した時、やりすぎ、かわいそうと世間は非難轟々だった。その時、ナンシー関が書いた「かわいそう、かわいそうって船の舳先にくくりつけられて(たけしのゴールデンタイムの番組で衆目をひとりで集めているコメディアンとしては絶頂の極みに)いる上島竜兵の顔に浮かぶ喜びを見つけることが出来ないなんて」という様な文章(記憶だけで書いているので本当とだいぶ違うと思います)を読んで以来、ナンシー関のコラムを積極的に探すようになった。
「感動をありがとう」と多くの人が感動したがりになっている気持ち悪さについての文章にも共感した。それを書いた時、これから「オリンピック」や「ワールドカップ」で感動の嵐になっていくであろうことを予言しているけど、それはまさに今の現実。そしてそれはさらにエスカレートしている。本当に気持ち悪い。オリンピックで自分が気持よく感動したいために、その筋書きにはまらない水泳の千葉すず選手を袋叩きのようにバッシング(その時のナンシー関の千葉すずの消しゴム版画は泣かせる。”世間”がみんなバッシングしている千葉すず選手を応援する一言を添えている)していた感覚はさらに膨れ上がり、他人の人生を犠牲にしても、もっと感動を欲しがる人で世の中はイッパイだ。キモチワルイヨ。例えば甲子園という舞台で一夏のために、限界を超えて投げ続ける高校生の投手に「感動」している。そして感動した後にはもうその投手の名前すら覚えていないだろう。(人の人生を一時の自分の感動の出汁に使うなよ)

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写真撮影OKの撮影コーナー。ここに立って見知らぬ誰かにシャッターを押してもらうほど心臓は強くないのでステージだけ撮影。

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ひとりで顔を出しても楽しくない。見られないから・笑

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出口にこんなスタンプが用意されていた。入場券代わり渡してくれた紙がこれを押すのに丁度良い大きさ。きめ細かな企画と展示。すごく楽しんだ。

彼女の才能を見抜いて世に出したえのきどいちろうや、ナンシー関の名付け親のいとうせいこうら、周りにいた人にも感謝したくなる。

今の世をナンシー関ならどんな風に切るのか。その消しゴム版画をすごく見たい。そのコラムをすごく読みたい。