自然を汚すな

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 地震とその後にやってきた津波の被害は甚大だ。阪神淡路大震災の時は家屋と共に残った思い出も少なからずあっただろう。だけど今回、津波に襲われた地域は本当にもう何もかも、根こそぎ、全てを持って行かれた。僕も周りの人たちから「本当に持って来られたのは命だけです」という言葉を何度か聞いた。心が痛い。それでも人々は前を向き始めている。そしてきっと前より少しだけたくましくなって、また笑う日が来るだろう、と信じていた。
 そんな気持ちをあざ笑うかのように、あの日以来、僕らは毎日少しづつボディーにパンチを打たれ続けている。福島原子力発電所の事故というパンチに。事故だけでなくそれを取り巻く人たちの考えや言葉にやられている。
 大スポンサーである電力会社に気を遣うテレビ局からは今日も専門家が「特に健康に問題を及ぼす事はありません」と繰り返している。Spitzのマサムネならずとも発狂しそうだ。怒りは当然、「原発?なんとなくいやだなぁ」で済ませてきた自分にも向けられている。
 「専門家」によって絶対に安全だからと全国に作られ今も計画が進められている原子力発電所。「想定外」の地震と津波で電力が仕事の会社の「電力設備」が真っ先に壊れるという悪魔の笑い話で冷却が出来ず今も深刻な自体に陥ったまま。(ただし「専門家」にとって今回の事態は想定外でも何でもなく予想通りだったから驚く事もなく淡々とテレビで解説しているという指摘もある)僕は「専門家」というのは素人には考える事が難しい「想定外」の事を考えられるから「専門家」なのだと思っていたがどうやらそうではなかったようだ。だけど想定外の事が起こったときに「想定外でした」と言っていいなら僕にも専門家がつとまる。さらには「想定外」度をアップしてこれでは仕方がなかった、ということにしたいのかマグニチュードさえM8.4からM9に引き上げられた。「想定外」の事に思いを巡らす「専門家」がいなかった悲劇、天災なら怒りを持っていく先はないから最後はあきらめて再び立ち上がるしかない。だけどこれは人災だ。だから怒りを押さえるのが難しいし、きちんと対処すればこんなにひどくなる事はなかったという思いに負けてうなだれ発狂しそうになる。車の中でひとりの時に汚い言葉で叫んでいる自分に驚いたりする。悲しくなる。汚い言葉を口にすると幸せは逃げていく。こんな時こそ言葉を大切に使わなくてはいけないのに。

国と東京電力は、郡山市民、福島県民の命を第一とし、原発「廃炉」を前提に対応しているものと考えておりましたが、国・東京電力は、今後の産業・経済を優先し、「廃炉」を前提としたアメリカ合衆国からの支援を断ったことは言語道断であります。
(原 正夫 郡山市長の原発事故に対する記者会見 より)

 地震でも奇跡的に何も失わないで済んだ、と思っていた僕は馬鹿だった。すでにたくさんのものを失っていた。そしてこれからも失うだろう。これからこの土地で作られる農産物をお前は口にするのかしないのかという踏み絵を踏まされる日が待っているかもしれない。そんなのはまだいい方なのかもしれない。原発が爆発して放射性物質だらけになってもこの土地で生きていけるのだろうか(ここで生きていきたい)。Flickrなどで知り合って交流していた海外の友人達からは地震の後、多くの励ましをもらった。そしてそれは今、すぐに避難すべきだという助言に変わっている。僕の住んでいる宮城県角田市は福島原子力発電所から約65kmくらい。日本政府の発表によれば「安全」だという。一方、友人からは「専門家は原発から100km圏以内の人間はすぐに退避しろと伝えています。tamaki、恥じる事はない、すぐに避難して」というメールが今またカリフォルニアから届いた。戦争に突入するときのかつての日本の国は嘘で固めた大本営発表を繰り返し、新聞ラジオといったメディアも追随しそれに反論する人間を非国民として弾圧していた。今、僕は何を信じたらいいのだろう。
 今回の原発が無事に終息するのか最悪の結果を迎えるのかわからない。だけど原発以後の世界を生きる事になったならその時、僕らには前向きに「退化」する覚悟が必要なのではというタニシさんの言葉に深く共感している。我が家の居間の照明は家が完成した時にお世話になった方々を呼んでささやかなパーティーをしたとき以外ほとんど点灯した事が無い。たまにお客さんが来たときだけ。僕らだけの時は食卓の上だけとかスポットで照明して基本的に暗い家だ。だからと言って都会の人に薪でご飯を炊けなんて言う気は無い。いらない照明を消すだけだって前向きな「退化」なんだと思う。
 以下、大震災&原発フォルダにどんどん放り込んでおいたウェブサイトのリンクをどこからでも見られるようにリストアップしておく。願わくばこのリンクリストを避難先から見る日が来ませんように(祈)。(僕はネットサーフィンが苦手です。以下のほとんどは人づてかたまたま見かけたサイトやブログです。自分なりの評価も定まっていないサイトもあります。ここもチェックしておいた方がいいよ、というサイトを知っている友人知人からの情報は大歓迎です)

 なお平井憲夫さんのサイトについては、原子力推進派によるプロパガンダが今、激しく行われています。「捏造された記事」だと。文章をブログに転載した知り合いのところには、すぐに訂正依頼のメールが届いた。この件に関しては評論家の宮台真司氏が「(平井さんの文章は)悪いシナリオが進んでいます。僕や周辺は、既に想定していた展開ですので様々な問題は対処済みです。出来る限り多くの方が事態の展開を想定内とし得るようツイートを続けてきました。想定と言えば僕の親しい友人の親しい友人が書いた文章です。」とツイートしてくれました。僕は宮台氏の著作や発言は以前から積極的にフォローして信頼しているのでこの件も個人的には信用する事にしています。ただ敵も多い宮台氏のことだから苦々しく思っている人もいるかもしれません。
 なお、ここで平井さんのサイトを信用していることを表明している僕への原子力推進派からの反論は受け付けません。特に原子力発電所は地方に作ってもらって自分はそこから遠く離れて住んでメリットだけを享受し理想論を語っている方々のものは。ただし、福島県に家族で引っ越し、その土地で暮らし空気を吸い水を飲み野菜を食べ、その上でリスクと(二酸化炭素を排出量が少ないから温暖化対策に貢献するはず等の)メリットの両方を考えている方からの反論の場合その限りではありません。
※冒頭の写真は夏に撮った家の裏の田んぼの風景。これからはこの写真を撮った時と同じような気持ちで見る事ができなくなるのだろうか。緑にあふれた空気を胸一杯に吸い込む幸せはもう味わう事ができないのだろうか。加工する前のそのままの写真もアップしておきます。クリックで拡大します。
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無邪気に「手を止めてふと見上げた空にうろこ雲。この世は美しい」とツイートし写真を撮る事ができた、淡々とした何気ない日々を返してください。飯舘村の素晴らしいキャンプ場も。