「キューティーアンドボクサ」ーを見た。(ネタバレありません)
叩きつけるように表現し、叩きつけるように「夫婦」してきた現代美術家の映画。見られる日を指折り数えて待っていた。
声出して笑った、泣いた。
なんて夫婦だ。なんて良い映画だ!
そんな夫婦の映画を、カミさんと一緒に見られる幸せ。
監督は4年間も撮影を続けたそうだ。そこに写っている、カメラの存在を全く意識させない映像は、さらけ出すことができる二人によるものは大きいだろう。そうだとしても、そこに他者である監督がいて撮影することが日常であるまでに、自然なことにできるほど監督が二人の信頼を得たのだろう。自分がそこにいるとしか思えない映像。そして深い信頼を得たであろう監督に乃り子さんは辛かった日々の事も少しずつ語り始める。
普通の人なら撮れなかったはずの膨大な撮影記録を持っているにも関わらず、この映画の中に一秒も無駄な時間が無い。映画の出来にはあまり効果的ではなくても思い入れがあるから入れてしまったと感じられるシーンが無い。そのことにも驚く。編集が完璧。篠原有司男がボクシングペインティングをしているときの表情を撮りたいと、晴天の元、公園で一日かけて撮影されたシーンは全部カット。なかなかそこまでできないと思う。篠原有司男さんもあのシーン、全部カットでがっかりしていたらしい。当然だ・笑(2014年1月13日まで開催されている「篠原有司男・篠原乃り子二人展」でそのショート・ムービー見られますよ!明るくてヴィヴィッドな色彩で素敵です)
ざらざらした紙の質感もよくてパンフレットを買った。映画のパンフレットを買うのは久しぶりだ。
そして、その中にザッカリー・ハインザーリンク監督の文章が掲載されている。優しくて冷静。(日本のテレビや新聞のように)自分が作り上げたイメージや勝手に作り上げたストーリーに沿うように撮って編集したのではなくて、ふたりの生活に寄り添い、そこから本当の姿をすくい上げるようにして、この映画を作った事がうかがえる文章でとても素晴らしい。彼のメッセージ。
これは、アート好きな人々のみならず、幅広い観客に向けた彼らの人生の物語なんだ。
この文章、パンフレットを買わなくても公式サイトで全文が見られます。興味のある方はこちらで。
※キューティー・アンド・ボクサー公式サイト
(この後も、ネタバレはありませんがフラットな状態で映画を見たい人は、見た後で)
映画やドラマを見て泣く事は滅多にないカミさんが横でずっと泣いていて少し動揺した。上の予告編の「キューティーはブリーが嫌いか?」との問に一瞬の間も開けずに「キューティーはブリーを愛してるわ」と答えたときなんか号泣。
4年間も淡々と撮り貯めた映像のドキュメンタリー映画だけどラストの数分にわたるカットだけは「やらせ」だ。だけどそのやらせのカットがこの映画を格段に良いものにしている。笑った。そして美しいスローモーションを見ながら涙が止まらなかった。
25年前の乃り子の映像を見ると驚く。これでは有司男の言う通りにするしかないだろう、幼い少女が写っている。最初見たときひとりしかいないはずの子どもがふたり写っていると思ったほどだ。今の乃り子に切り替わる瞬間が人生のどこかであっただろう事がよくわかる。
5分くらいのところ。
個人的には今まで観た映画の中できっとベスト5本に入るだろう。
面白かった!拍手したくなる衝動を抑えたくなりながら映画を見たのは初めて。