蛇窯の解体

昨晩、友人の池田さんが赤みを帯びた南蛮と呼ばれる焼締を焼いていた蛇窯(じゃがま)を解体したと知った。

ショックだった。自分の事じゃないのに、なんだか悔しくて寂しくて悲しくて、我慢できずに窯の最後の姿を見せてもらいにえみし窯へ。

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まだここに何もないときに、窯を作るために最初に地面を掘るのを少しだけ手伝った。

窯が出来た後は、何度か窯焚きも手伝わせていただいた。手伝うというよりかは窯焚きをやってみたくてお願いした、というのが本当だったんだけど。

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焼却場が解体される時に、取りに来れば廃棄されるレンガをもらってもいいという情報が入り、みんなでレンガを取りに行った。その時のレンガも含まれているという。懐かしい。

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一週間近く炊き続ける窯の手伝いは、勤めのある人が手伝うのは難しい深夜を担当させてもらうことが多かったけど、火が燃える音しか聞こえない中で火を見つめているのは贅沢な時間だった。初めての人と組になることもあったけど、場を持たせるために何かを話す必要もなかった。

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放射能で汚染された地元の薪を大量にくべて焼き上げる陶芸は、作品自体が放射性物質になってしまう。薪が燃えて残る灰は放射能が驚くほど濃縮されるから。チェルノブイリでは各家庭で暖を取ったり料理をする薪ストーブは「小さな原子炉」と呼ばれたほどだ。池田さんは原発事故の後、薪を使って蛇窯で作品を焼くことを断念されたのだ。

原発事故の放射能が奪うものはモノだけじゃない。それさえ無ければ当たり前にあるはずの多くの人の未来を奪った。金で解決できない人生そのものが含まれている。

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原発事故後はガス釜で作品を焼きながら、角田市民放射能測定室を立ち上げ、作陶と平行して市民のために放射能の測定を行っている。今日、行った時は今月いっぱい借りているというホットスポットファインダーを見せてもらった。

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測定の精度が高いだけでなく、今まで測定器によって30秒以上かかっていた測定時間が数秒に短縮。しかも、この計測器を持って移動すればGPSと連動して即座に放射能汚染マップが出来上がる。歩けば家の敷地や通学路を。車に乗せて測れば地域の広範囲の地図が作成できる。今までの測定器でマップを作ったことがある人なら、放射能汚染マップを1枚作るのがどれほど大変なことか知っているだろうけど、あの膨大にかかっていた時間やメモ、まとめの労力がタブレットの中で出来てしまうことに驚くだろう。すごい。そして他地域にはどんどん導入されているのに、汚染のある宮城には、この計測機器が一台も無いという。みんなに寄付を募って導入したいと話していた。(チラシなどが出来た際はお知らせします)

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後から友だち夫婦もやってきてお土産のピタパンのおすそ分けをもらってしまう。美味しかった、ごちそうさま。
乾坤一は蛇窯の餞別にぶら下げていった。

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チャオ、カメラ目線をありがとう、キミは可愛すぎる。

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解体されたレンガは八戸で命をもらって、また新しい窯になる、と池田さんは淡々と話す。高ぶった感情は垣間見られない。胸中をうかがい知ることはできないけど、僕だったら怒りと失望に包まれるのではないかと思った。

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池田さんの作った原子炉の焼き物。

解体した蛇窯の写真だけではあまりにも悲しすぎる。池田さんに了解をもらったので、このブログに登場する前の、昔の窯焚きの写真を最後に貼っておく。

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■築窯して2年後の2002年8月の窯焚き

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色や焼き具合を確認するテストピースを取り出す池田さん。

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■2003年9月の窯焚き

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脇差し(正面ではなく脇から追加の薪)をくべている。

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窯焚きが後半になってくると脇から鬼の角のような火が上った。

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■2004年5月の窯焚き

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窯焚き終了の時を見極める池田さん。その判断をくだす頃はほとんど徹夜で何日も過ごしていて披露がピークに達している時だ。

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夜の窯焚きは何かに包まれているような安堵感があった。

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チャオは一番ふかふかのソファでお休み。

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窯焚きを終了して煙突の雨仕舞。

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数日後、窯が冷えて窯出しを始めたというので作業を見せてもらいに行った。

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薪の灰のかぶり方でいろんな風情が出ている。

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大作の壺を窯から出す池田さん。作品がほんのり温かかった記憶がある。

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先日、金接ぎして修復した片口はこの窯焚きの時のものだったかもしれない。

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さようなら、蛇窯。

この窯の解体は何を象徴しているんだろう。